インプラントより人工歯根(?)を!船瀬俊介
南武線平間駅徒歩1分。ワコ歯科・矯正歯科クリニック院長の長崎です。
ザ・フナイ 86号。マス・メディアには載らない本当の情報を読みました。
その中に「インプラントより人工歯根(?)を!船瀬俊介」というトンデモ記事がありましたので紹介します。
船瀬俊介先生は、「買ってはいけない」を出版し、現在でも人の不安を煽ってアレコレ物を売る方々とアレコレされているトンデモ作家さんです。
この記事で主張されているのは
「インプラントよりも優れた「人工歯根」という技術が20年前に開発されているのに、インプラント利権を守ろうとする歯科医師達によって潰された。」
という内容です。
先にオチを言ってしまうと「既に普及している技術を『闇に葬られた技術を私は発見した!インプラント利権許すまじ』と勘違いして記事にしてしまった」というものです。
まあ、まともに取り合うのは、船瀬俊介さんの信者や、つるんでいる内海聡先生の著書を真に受けるような中二病患者だけだと思うのですが、一応歯科医師としてあまりにトンデモない事を広められても困るので、一つ一つ反論していきます。
※歯科関係者の方、私の説明で「ちょっと違うよ」という点がありましたら、ご指導をお願いします。
1.インプラントより人工歯根を(ザ・フナイ86号 P142)
「インプラント」というのは生体内に埋め込まれた人工物の総称ですので、人工歯根(昔はインプラントのことをこう呼んでいました)もインプラントです。
まあ、現在では「インプラント」という言葉は「チタン製で出来たネジを顎の骨に穴を開けてネジ込み、人工の歯とする技術」の総称という意味の方が広く知られていますが。
つまり、船瀬さんは「こんにちはよりハローを!」的な事を言っていることになります。
どうも、(歯科用)インプラントとは異なる「人工歯根」というものが存在するという風に思い込んでいるようです。(この件は後述します)
2.さらばインプラント!決定的”人工歯根”の登場(ザ・フナイ86号 P148)
P149に「アパタイト人工歯根の周囲組織における応力分布の有限要素解析
http://www.nishihara-world.jp/dissertation/work01-ap/013j.pdf
という論文のコピーが載っています。
論文においては(どーゆうわけかはわかりませんが)インプラントの事を「人工歯根」と表記することがままあります。多分、「インプラント」と書くと学術的には「生体内に埋め込まれた人工物の総称」の意味になってしまうので、(歯科用の)インプラントと意味を限定するために「人工歯根」という用語を使っているのでしょう。
それを船瀬さんは「インプラントは異なる”人工歯根”という、インプラント利権によって潰された技術を発見したぞ!」と思い込んじゃったようですね。。。
ちなみに、この論文のテーマは「人工歯根の周囲組織における応力分布の有限要素解析」というのは「人工歯根を骨に埋め込んだ時に、どのように骨がたわむ(応力がかかる)のか?」というものです。念の為。
3.つまり、アパタイト人工歯根は、歯槽骨と癒着することなく、境界面に自然なクッション組織(歯根膜)を形成させることが出来る!(ザ・フナイ86号 P151)
「歯根膜」とは、天然の歯のセメント質と、顎の骨の間に存在し、歯と骨を繋ぐ組織のことです。
通常、歯科用インプラントはチタンでできていて、骨とはオッセオインテグレーションという形式で結合します。
この論文はHA(ハイドロシキアパタイト 骨や歯をつくるアパタイトと呼ばれる成分の仲間)インプラントという、チタン製のフィクスチャー(歯科用インプラントの骨に埋まるネジ部分)の周囲にHAを薄くコーティングしたものを取り上げています。
HAインプラントは、骨とはバイオインテグレーションと呼ばれる様式で結合します。チタン製インプラントにおけるオッセオインテグレーションとは異なりますが、天然の歯のセメント質と骨との間に存在する歯根膜とも、確実に異なるものです。
船瀬さんのとんだ勘違いです。チタンー骨:オッセオインテグレーションは起こりますし、HAー骨:バイオインテグレーションは起こりますが、歯根膜は(私が知るかぎりでは)できません。できたら、多分ノーベル賞モノでしょう。
これまでの著書を読む限りでは、読者に「ええ、こんな技術が!インプラント利権はこんな技術を秘密にしていてけしからん!」と思わせるためにわざと間違った(しかも、あとから言い訳できるような余地を残して)とも考えられます。
4.こんな自然な療法が知られ、普及したらインプラント利権が困るからですよ。(ザ・フナイ86号 P153)
「こんな自然な療法」というのは、おそらくHAインプラントの事を指していると思うのですが、HAインプラントはとっくの昔に実用化されており、インプラント全体の3割を占めています。
ただ、チタン製インプラントに比べて主流となっていないのは、HAが骨とくっつきやすいという利点はあるものの、HAコーティングとフィクスチャーのコーティングが剥がれやすいことと、チタン製の表面にくらべてインプラント体周囲に感染が起きやすいという欠点があるからです。
チタン製インプラントとHAコーティングとインプラントのどちらがすぐれているということではなく、患者さんによって使い分けているというのが実情です。
5.西原氏らは、犬を使った動物実験で(中略)人工歯根の周囲に、明らかに新生骨が再生しているのだ。(中略)「一度抜けたら、顎の骨(歯槽骨)は再生しない」という説は、決定的に誤りだった。それは”迷信”にすぎなかった。まさに、歯科医学における歴史的かつ革命的な大発見である。(ザ・フナイ P151~152)
鬼の首を取ったかのように大喜びしていますが、この現象自体はよく知られていますし、歯槽骨の再生は他の方法でも結構実用化されています。また、特別なことをしなくてもプラークコントロールを行うだけで、歯周病によって溶けた歯槽骨が回復することも(かなり良い条件が揃えば、という但し書き付きではありますが)ないわけではありません。
論文を読むと、骨に開けた穴にHAインプラントを差し込み、骨とHAインプラントのスキマに骨が再生した、前述のバイオインテグレーションが起こったということを説明しているにすぎません。チタン製の歯科用インプラントでも、骨とインプラントのスキマが骨で埋まることはままありますし、オッセオインテグレーションも起こります。。
6.「以上、従来の歯科インプラントと比較してアパセラムN型人工歯根は、歯の欠損症の治療に極めて有効(中略)これほど素晴らしい医学上の発見と業績が、なぜ闇に埋もれたままで、20年以上の歳月が虚しく流れたのか(中略)普及したら、インプラント利権が困るから(ザ・フナイ 86号 P152~153)
だからですね、船瀬さん。。。 あなたが仰っている人工歯根とは、HAインプラントという名前で既に普及しまくってるんです!
名前が違ったから気が付かなかったんでしょうね。。。
ちょっとでもインプラントをかじった歯科医師に一言聞けば、簡単に勘違いがわかったものを。
まあ、船瀬さんは「こーゆう芸風」ですから、怒る気にもなりませんが。
ネットや健康本、なんとか健康セミナーとかで船瀬俊介さんの名前はよく出てきますが「プロに一言聞けばよかったのに。。。」レベルの誤り、勘違い、悪意のあるすり替えが度々、いやしょっちゅう、というかいつもです。
くれぐれも、信じて言いふらして恥をかかないように気をつけましょう。
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自分で今回の記事を書いてよくわかりましたが
「何かをネタ元にしてデタラメをこくのは簡単だけど、そのデタラメのどこが間違っているのかを指摘し、訂正するのはものすごい手間がかかる」
ということです。
内海聡や船瀬俊介さんは「デタラメと訂正の手間格差」を大いに活用されているわけです。いやあ、頭の良いことです。尊敬します。