セルフケアで歯肉が引き締まると
JR南武線平間駅徒歩1分。ワコ歯科・矯正歯科クリニック院長の長崎です。
セルフケアで歯肉が引き締まると、という話です。
写真の患者さんは、40代女性です。 レントゲンの黄色丸部分の歯がグラグラする、噛むと痛いという理由で来院されました。
プラーク(バイキン)が歯と歯肉の間の溝(歯周ポケット)に溜まったことにより歯周病が進行していることが原因です。
理想論で言えば、歯についた歯石を全て取り除き、歯周ポケットの深い部分の歯石に関しては麻酔をしたり、場合によっては歯肉を切り開いて取り除く必要があります。
ただ、歯がグラグラする、噛むと痛い状態の場合、歯肉がプラーク(バイキン)によって炎症を起こしているため、歯石を取ると凄く痛いことが殆どです。
また、最新の論文によると
・歯石自体は歯周病を悪化させるような悪さはしない。
・歯周病を悪化させるのは、プラーク(バイキン)である。
・歯石の表面はザラザラしているので、プラークがくっつきやすく歯周病を悪化させる要因のひとつなので、理想を言えば歯石は全て取り除いた方がいいが、順番で言えば患者さん自身によるプラークコントロールが最優先である。
という感じの流れになっています。
昔は「歯周病の治療のために歯石はとにかく取りましょう」だったのが「プラークコントロールがまず大事だよね」に移行しているということです。
プラークコントロールは、歯肉縁上(歯肉の上の部分)と、歯肉縁下(歯肉の下の部分)に別れます。歯周病に関連するのは歯肉縁下のプラークコントロールが重要です。
ワコ歯科では、プラークコントロールは歯ブラシだけでは不可能、というスタンスです。歯と歯の間、歯周ポケットの中は、歯ブラシだけれプラークを落とすことは物凄く難しいからです。
(まあ、やり方によっては可能なのですが、歯と歯肉の構造の完璧な把握と、名人芸に近いような歯ブラシの使い方を要求されます・・・。それを全ての患者さんに要求するのは酷でしょう。患者さんは歯ブラシ使いマスターになりたいのではなく、なるべく少ない労力で痛みや苦しみが無くなることを希望しているのですから)
歯間ブラシ、デンタルフロス、音波歯ブラシを活用することで、歯ブラシだけよりもはるかに簡単に歯肉縁上、歯肉縁下のプラークコントロールが可能になります。
歯間ブラシ、デンタルフロスを歯と歯の間に通すときに、歯肉をマッサージするように使うこと。また、音波歯ブラシを歯と歯肉の境目に当てることで、振動が歯肉縁下まで(ある程度)は伝わり、歯肉縁下のプラークコントロールが可能になります。
歯科医院でのクリーニングを行えば、そりゃあ歯肉縁上から歯肉縁下までピッカピッカにできますが、プラークはご飯を食べたり、生きているだけでもすぐ歯肉縁上、歯肉縁下につくものです。毎日歯科医院でクリーニングを行うことは多くの患者さんにとって非現実的な提案ですので、ワコ歯科では「セルフケアが一番大事。あなたのお口を守るのはあなた自身です」とお話しています。
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お口の中の写真の丸印部分の歯肉が、患者さん自身の歯間ブラシによるセルフケアで、引き締まっていることが確認できます。最初は歯間ブラシを入れると出血、痛みがあったそうですが、プラークコントロールが上手になるに従い、歯肉の炎症も収まり、痛みも無くなってきました。
青丸の部分は、歯肉が引き締まったことにより歯肉縁下に隠れていた歯石が顔を出したものです。理想的には全て取り除いたほうが良いのですが、ガチガチに歯にくっついている為、一気に取ろうとすると歯も一緒に削りかねないので、毎回のチェックで少しづつ取り除いています。多少の歯石が残っていたとしても、プラークコントロールができていれば、急いで取る必要はないと考えています。歯周病の原因は歯石ではなく、プラークにあるからです。
歯のグラグラが完全に止まったわけではないですし、一度歯周病によって溶けた骨は基本的には回復しないので、この状態でゴールとするのか、今後の持ちが悪いと思われる歯を抜いてインプラントやブリッジ、入れ歯にするのかというのは歯科医師や患者さんによってかなり意見が異なるとは思います。
ただ、この患者さんの希望は
「とにかく痛いのは嫌。抜いてインプラントもなるべくならしたくない」
ということですので、完璧な状態ではありませんが、定期的なチェックをしたうえで、また痛みやグラグラが出てきたら抜くことも検討するという方針で現状維持を目指しています。