予防歯科において、虫歯を削る基準。
ワコ歯・矯正歯科クリニック院長の長崎です。
予防歯科において、虫歯を削る基準の話です。
先日「他の歯医者さんで虫歯がいっぱいあると言われたけど、セカンドオピニオンを求めたい」とのことで来院された患者さんがいました。
お口の中を見ると、明確な虫歯は1本だけで、あとは「削るかどうかビミョーな状態」の歯、あるいは詰め物しかありませんでした。
私は、原則として患者さんの前で他の歯科医師の治療や方針を批判すべきではないと考えています。
仮に明らかな間違いがあったとしても、その治療や方針決定に至るまでの歯科医師:患者間のやりとりを把握しないままで、見えていることだけで判断するのはよろしくないということと、患者さんの前で他の歯科医師を批判することは、歯科医療に対する信頼そのものを失わせてしまい、結果患者さんを必要な歯科医療から遠ざけてしまう可能性が高いからです。
その患者さんには、上記のことを正直に話した上で
「私が目とレントゲン写真を見た限りでは、明確な虫歯は1本のみです。他の歯に関しては現時点で削らなければならない部分は無いように思います。最終的には唾液検査、染め出し等で虫歯のリスクを算出し、進行速度がどのくらいなのか。つまり、進行抑制のみでなんとかなるのか、急いで削らないとえらいことになるのかを見極めてから再度説明することになります」
とお話ししました。
また、
「虫歯とは、脱灰といって『虫歯菌の出す酸により、歯が溶かされている状態』と、再石灰化といって『歯から溶けたカルシウムが、再度溶かされた歯にくっついている状態』の間を揺れ動くプロセスであり、一度虫歯になったら絶対に削らなければならないわけではないのです。虫歯になっても、ごく初期であれば治ってしまうこともあるし、治らないまでも進行が止まったり、すごくゆっくりになって削らないですむ場合もあります。もちろん、なぜに虫歯になったという理由を考えると、生活習慣やセルフケア、定期的な歯科医院でのチェック等を見直す必要はありますが」
と補足しました。
患者さんは、唾液検査を受けたのみで初日の診察を終了しました。来院されたときは不安そうな顔だったのが、諸々の説明を聞いて次回の予約を取るときには、ニコニコして帰っていったので、多少は不安を解消する役に立てたのかなと嬉しく思いました。
次回以降、唾液検査と染め出しの結果から虫歯のリスクを算出し、その患者さんが受け入れ可能な進行抑制の方法をアレコレ考えないといけませんが。
『他の歯医者さん』が、なにをもって『虫歯がいっぱいある』と患者さんに説明したのかはわかりません。削る基準が私とは異なっていたのかもしれません。
ただ、削るという判断をしたのであれば、明確な方針を持ち、それを患者さんにわかりやすい言葉で説明してしかるべきだったではないか、とは思います。
患者さんは「どこに何本虫歯があるのか聞いても、なんかはっきり答えてくれなかったから、不安になって…」ということでした。
もしかしたら、忙しくて説明する時間が取れなかったのかもしれませんし、何か他の事情があったのかもしれませんが、日を改めて説明するなり、とにかく何かしらの一工夫があれば、患者さんは不安な気持ちになることもなかったでしょう。
こーゆう「セカンドオピニオン希望」の患者さんが来るたびに、自分の説明は患者さんにちゃんと伝わっているだろうか、と考えてしまいます。
当院では、初診の患者さんに虫歯を発見してもその日に削ることはありません。(痛みがある場合の応急処置は行いますが)
・口腔内写真(12枚)、パントモ(おおまかなレントゲン)、デンタル10枚法(詳細なレントゲン)の撮影。
・唾液検査、染め出し、生活習慣の聞き取り等によりカリエスリスクの算出。
・デンタルフロス、歯間ブラシ、フッ化物洗口等セルフケアの指導。
上記のことを行い、進行の抑制が見込めなければ削りますし、ビミョーな状況であれば長期的な経過観察を続け、虫歯の進行が止まっていればそれでよし。残念ながら進行してしまったら、その時に初めて削るようにしています。
多分、同じような虫歯であっても日本の標準的な歯科医師に比べると、削らずに進行抑制+経過観察にすることが多いです。
それが絶対的に正しい事なのかはなんとも言えませんが、少なくとも私は「削るには、それに足る十分な理由が必要である。進行抑制が可能であれば、なるべく削るべきではない」と考えて、必要な検査諸々を行い、患者さんにもそのようにお話しています。
なんかモヤモヤする「虫歯がいっぱいある」という話でした。