保険と自費の議論で、すっぽりと抜け落ちているものの話(院長 長崎)
JR南武線平間駅徒歩30秒、ワコ歯科・矯正歯科クリニック院長の長崎です。
保険と自費のどっちがいいかという議論で、すっぽり抜け落ちているものの話です。
※歯科業界には都合の悪い話ですので、業界の方は読まないことをお勧めしますm(_ _)m 読むなよ!絶対読むなよ!(ダチョウ倶楽部的に)
歯科治療でよく聞くことに「保険と自費」の違いがあります。
ごく大雑把に言えば
>保険の詰め物:安いが色、精度、耐久性に劣る
>自費の詰め物:高いが色や見た目が自然の歯に近く、精度や耐久性に優れる
といったところでしょうか。
まあ、インプラントや先進的な医療等もありますが、話を簡単にするために、今回は詰め物やかぶせものに限定します。
虫歯を削って型取りした後
「詰め物の種類はどうされますか?保険のものは一種類。自費のものは材料等で幾つか種類があります」
と聞かれた経験のある人は多いかと思います。
これは、保険では制度上一種類しか詰め物の選択肢がなく、自費の場合はセラミック、セラミックとプラスチックの混ぜもの、金等幾つかの選択肢があるからです。
患者さんからはよく
「保険と自費、どっちがいいんですか?」
と聞かれることがあります。
なかなか単純に答えることが難しい質問です。
材料の性質、精度、耐久性だけで考えれば、自費の詰め物の方が良いに決まっています。
保険では国が定めた材料しか使うことができないのに対し、自費では材料の制限がなく、精度のいい材料をいくらでも使えるからです。
また、保険の場合は「この詰め物の場合、請求できるお金はこれだけですよ」と金額が決められているのに対し、自費の場合は患者さんと歯科医師との契約なので、値段はいかようにも設定できます。まあ、大体は保険の詰め物の数十倍の値段になります。
自費の詰め物の値段ですが、材料費だけではありません。
型取りに使う材料も、精度の良い物が使えます。
何よりもお金を多く頂く分「作業に要する時間」を長くできます。
つまり、削って、型を取るという歯科医師側の作業時間。
型を元に詰め物を作る歯科技工士さん側の作業時間。
出来上がった詰め物を歯にくっつける時の、歯科医師側の作業時間。
保険であれば、作業時間に関わらず頂けるお金は一定なので、どうしても薄利多売にならざるを得ません。
自費の「材料は最高のものを使える」「作業時間もたっぷり取れる」条件と、勝負になるはずがありません。
自費と保険のどっちがいい?と聞かれたら「自費に決まってます」というのが答えになります。
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じゃあそれで決着じゃないか!これ以上書くことあるの?
いや、話はそう単純ではなくてですね…
この「自費か保険か」という議論には「何故にその歯が虫歯になったのか」という観点がすっぽり抜け落ちているんです。
殆どの場合、虫歯は患者さん自身のセルフケア、生活習慣、持って生まれた体質等の積み重ねによって起こり、進行します。
詰め物が自費か保険かにこだわる前に、まず患者さん自身のセルフケア、生活習慣、持って生まれた体質等を調べ、虫歯のリスクを確認し、可能な範囲で改善して虫歯リスクを下げる、これが先ではないでしょうか?
よくネット上でみられる「保険はクソ!自費最高!」という歯科医師や関連業者の議論には、この「患者さん自身の虫歯リスク」という観点がすっぽり抜け落ちています。
まあ、言えるわけ無いですよね。そこに触れてしまったら「セルフケアや生活習慣を頑張って改善して虫歯リスクを下げるわ!でも詰め物は保険でね」となりかねないのでね… 虫歯リスクを下げてもらっても歯科医院には1円も入りませんし、まして保険を選ばれてはますます実入りが少なくなるので…
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①自費の詰め物→セルフケアや生活習慣は変わらず。虫歯リスクは同じ
②保険の詰め物→セルフケアや生活習慣を改善し、虫歯リスクを頑張って下げる
①と②では、どちらが二次カリエス(詰め物が再度虫歯になること)のリスクは高いと思いますか?
私は②の「保険の詰め物だけど、患者さんが努力して虫歯リスクを下げる」方が、二次カリエスのリスクは低いと思います。
理想論で言えば、自費の詰め物を選択した上で、セルフケアや生活習慣を改善して虫歯リスクを下げる事が良いのでしょうが、そもそも多くの歯科医院、ネット上での歯科関連情報サイトで
「虫歯になったのは、そもそも患者さん自身のセルフケアや生活習慣、持って生まれた体質等の積み重ねが原因である」
「つまり、詰め物を保険にしようが自費にしようが、それらの事柄を可能な範囲で改善し、虫歯リスクを下げなければ、結局二次カリエスになってしまう」
事に触れている事は皆無に近いです。歯科医院の現場ではどうかはわかりませんが…
実際、多くの患者さんのお口の中を見ると
>保険の詰め物が、30年近く全く問題なく機能し続けているケース
>自費の詰め物が、1~2年で再度虫歯になってしまったケース
>その中間
まあ色々なケースがあるわけですが、個人的には
「詰め物の材料が、耐久性の決定的な差ではないことを教えてやる」
※モビルスーツの性能が、戦力の決定的な差ではないことを教えてやる(シャア少佐)。
と考えています。
見た目の点では、保険の銀歯よりも自費のセラミックの方が圧倒的に優れています。
しかし、耐久性(再度虫歯にならず、長期間お口の中で機能するか)を考えた時には、自費と保険の材料の精度の差よりも、患者さん自身のセルフケア、生活習慣諸々の方が大きいのではないのでしょうか?
ワコ歯科・矯正歯科クリニックでは、小さな虫歯はなるべく進行抑制のみで削らないようにしており、滅多に削って詰める治療はやらないのですが、やむを得ず削って詰める場合には、上記のような説明をした上で保険か自費かを選んで頂いています。
以前、セルフケアや生活習慣等の虫歯リスクを全く考えていなかった勤務医時代は、再度虫歯になるかどうかは100%材料の精度が決める!とトンチキな事を考え(セルフケアや生活習慣等、患者さんの虫歯リスクのことはこれっぽっちも考えませんでした…恥ずかしいことです…)、保険はクソ!自費最高!という説明をしていた結果、自費の詰め物で結構稼がせて頂きました。
今は上記のような説明をした上で、詰め物を保険か自費かを選んで頂いているのですが、9割方は保険になっています。その代わりと言っては何ですが、セルフケアや生活習慣の改善と、定期健診を概ねの患者さんに実行して頂けています。
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さて、これだけ読んだ上でそれでも「詰め物は保険はクソ!自費最高!」と単純に言えますか?